2025.11.04 JOURNAL|INTERVIEW & COLUMN

「ビジネス呼び捨て」をやめたというお話

ここ一年くらいかけて、ひとつやめたことがある。社外の人とのやりとりで自社の人を呼び捨てにするルールをやめた。「いま佐藤が申したように」や「うちの佐藤から後ほどデータ送ります」といったあの呼び捨てだ。

理由は単純。「もういいかな」と思ったから。社会人になったときから変なルールだなとは思っていた。自社の人は上司も部下も「身内」という扱い。取引先に対してへりくだる感じを演出する。サラリーマン的で昭和的なルールだった。

「いま佐藤さんが、あ、いや、佐藤が言いましたが」と言い直す場面。自分にも覚えがある。上司を呼び捨てにして「あれ、変な空気になってる?」と想像する自意識過剰のドキドキ。どれも無駄な時間だ。

社会では盲目的にへりくだるシーンが他にもある。例えば「させていただきます」の連発。まるで「許可をいただいた」みたいな物言い。自らの意志でやっているのだから「いたします」や「します」という普通の敬語表現でいいのに過剰な謙譲語を多用する。謙譲したいわけではなく、「させていただきます」で予防線を張る。そんな潜在的な心理が背景にあると言われる。

近年「お客様は神様です」の風潮が急速に薄れてきた。カスハラに堂々と対抗できるようになってきた。従業員もお客さんも同じ一人の人間。そこに過剰な上下関係はない。

必要以上にへりくだる。必要以上に相手を持ち上げようとする。そこに漂う微妙な「気持ち悪さ」に多くの人が気づきはじめている。その違和感が日頃の言動や行動を変えはじめている。

令和になっていろんなことが変わった。旧態依然としたルールが変わりはじめ、閉鎖的な縦社会が壊されてきた。異常だと感じていたけれど声を上げられないようなシチュエーションに遭遇しても、スルーせずに「もうやめようぜ」と改善の選択肢をチョイスする。つまり「ふつうの状態」になってきた。これは小さな革命だ。些細なことであっても「生きづらさ」が取り除かれるのはとても健全だ。

 

[ヨリヨクとは]
コピーライター職を軸足に活動するインプロバイドのクリエイティブディレクター池端宏介が綴るコラム&インタビュー企画。企画名は社名のIMPROVIDE(「より良くする」という意味の造語)に由来する。テーマは「コトバ」「デザイン」「ブランディング」「マーケティング」「地域のクリエイティブ」など。独自の視点と経験から「よりよくする」を掘り下げる。

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作り手にとって大切なこと | GUEST アートディレクター 葛西薫さん

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