デザインには職員も県民もハッピーにする力がある | GUEST 「さがデザイン」古賀一生さん(佐賀県さが政策推進チーム)

札幌市、旭川市、神戸市など行政がデザインやクリエイティブに力を入れている地方自治体は少なくない。佐賀県が取り組む「さがデザイン」の資料を見るとまずこう書いてある。「行政にデザインの視点を取り入れ“見た目をよくすること”だけではなく、地域や事業等が抱える課題を的確に捉えて解決に導くなど、施策を総合的にデザインしています。」 つまりは、近年よく言われる「デザイン思考」や「デザイン経営」の文脈を行政が主体的に実践しようという話。とはいえお金や理解度の問題で「行政とクリエイティブ」にはかなり距離を感じる。実のところどうなんだろう? 佐賀県庁に取材の依頼メールを送り、若き担当者 古賀さんに話を聞いてきた。
◎「さがデザイン」とは何か。簡単に教えてもらえますか?
〈古賀さん〉「どうしたらチラシのデザインが見やすくなるか?」から、まちづくり的な大規模開発の伴走支援まで「デザイン視点」で関わっています。「さがデザイン」は独立したチームなので、県庁のあらゆる部署から相談を受ける横断的な立ち位置で、いわゆる縦割り行政の壁を取り払うため、プロジェクトに応じた庁内関係者の調整も行っています。

◎行政の担当者が自作するチラシは、文字が多くて見づらくて“ダサい”というのが主流。そこにどう風穴を開けるのですか?
〈古賀さん〉余白を活かす、優先順位を付けてレイアウトする、文章を減らす、適切な書体を使うなど、本当に基本的なアドバイスをします。少しずつ「デザインの見方」の力を付けてもらう感じです。パワポでも十分にわかりやすいチラシが制作できるように支援をしています。ただ、最も大切にしていることは、チラシの相談が来た時にも「本当にそれを訴求するにはチラシという選択肢がベストなのか?実はSNSの方が効果的では?」といった各事業が抱える課題が正しく捉えられているかアドバイスをします。それこそがデザイン的解決の本質だと思います。
◎そんな古賀さん自身はデザインに詳しかったんですか?
〈古賀さん〉いえいえ。新卒で熊本の企業に勤務したのち、佐賀県庁の農政職に転職。2025年に「さがデザイン」に異動してきました。リーダーの近野は広告代理店出身ということもありいろいろ学ばせてもらっています。もちろん独学で本を読んだり、あとはデザイナーとのやりとりから学んでいます。さがデザインは庁内の各部署と外部のデザイナーをつなぐハブのような役割もあるので、デザイナーとやり取りする上でも、デザイン現場での作業量や使う言葉を知らないといけないなと。
◎「さがデザイン」はどういう経緯で誕生したんでしょう?
〈古賀さん〉佐賀県の山口知事が、知事就任以前からデザイナーと呼ばれる人たちが持っている表現技術や物事の本質を的確に捉える視点、課題解決力に注目されていたそうです。デザインの視点を取り入れることにより、ひとつひとつのプロジェクトがさらに息づき、みんなが様々な面で心地よいと思える佐賀になる。そんなビジョンを掲げて就任直後に「さがデザイン」を県政の柱として立ち上げました。さがデザインは、立ち上げ当初から政策部内に置かれているからこそ、庁内関係者とスムーズに調整できることも大きいですね。

◎これまで「さがデザイン」が関わった代表的な事案を挙げてください。
〈古賀さん〉まずは施設などのハード関係から。佐賀駅から南へ延びる道路約200mを広場のような歩道空間「さが維新テラス」としてリニューアルしました。元々は片側二車線の駅前通りを片側一車線に変更し、歩道を広げてベンチやテラス席を設けたことで、キッチンカーやマルシェなどで利用され、誰もがゆったり滞在できる空間となっています。「SAGAサンライズパーク」はSAGA2024(国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会)を機に整備されたエリアですが、その先の活用までも見据えて整備してきました。バスケ、バレーなどのプロスポーツの観戦はもちろん全国的な学会や音楽イベントが開催されるSAGAアリーナが完成し、まちや県民のライフスタイルに変化が生まれました。佐賀にB’zやミスチルが来るようになったんです(笑) これらの案件はコンセプトづくりから「さがデザイン」視点で磨き上げています。デザインは「見た目だけかっこよくすることではない」というのがわかってもらえる事例ですね。

*写真:さがデザイン提供
◎ソフト面ではどんな実績がありますか?
〈古賀さん〉「SAGA BLUE PROJECT」は、デザインの力で県民の意識改革と事故防止を図るプロジェクト。佐賀県は人口あたりの人身交通事故件発生件数が高く、この状況を改善できないかという課題がありました。集中力を高めると言われる「青」をキーカラーに、県内各所の交差点を青色の枠で塗るカラー塗装や、子どもたちが交差点に絵を描くアートイベントも開催。年齢に合わせた取り組みも行い、県全体で取り組んでいるプロジェクトです。農業分野では、「さがアグリヒーローズ」は私が農政出身ということもあり思い入れのあるプロジェクトです。一見よくある6次産業化を後押しする伴走型のプロジェクトなんですが、「4年間で売上1000万円増加を目指す」という長期サポートで売上目標付きというのがポイント。パッケージデザインだけリニューアルして終わりという6次化支援が全国的に多いなか、支援対象者に「なぜデザインにお金をかけるのか」を理解してもらいます。デザイン投資に抵抗感を下げ、デザインリテラシー(理解度)を高めることが狙いです。公募で選ばれた支援対象者は5組。県内外クリエイターと共に商品開発、ネーミング、パッケージデザイン、販促などトライアル&エラーを繰り返しながら答えをじっくりと探っていきます。出口戦略まであらかじめ準備し、首都圏や福岡などでポップアップストアを開催。都市部の消費者と実際に対話し、反応を見る機会を得ます。パッケージデザインをよりよくすることの目的は販売単価を上げること。値段に見合った価値を理解してもらうためには、当然見た目やわかりやすい文言が重要です。ただ、パッケージデザインも経営判断のひとつで、一番大切なのは支援対象者の経営感覚を高めることだと考えます。

*写真:さがデザイン提供

*写真:さがデザイン提供
◎ここまでのお話はすべて、主体となる担当部署があり「さがデザイン」は相談を受けて伴走する、というパターンですが、さがデザインの自主事業もあるんですよね?
〈古賀さん〉 2025年に初開催した「SAGA DESIGN AWARD」は、佐賀を心地よくするデザインを発見し、讃え、広げるアワードです。このアワードの特徴は、モノではなく、コトにフォーカスしている点です。メディアで取り上げられる機会も多いので、入賞者のプロジェクトに光が当たるのはもちろん、我々「さがデザイン」の取組、デザインそのものやデザインのチカラを県民に知ってもらえます。隔年で開催し、次回は2027年に開催しますので、佐賀で生まれたデザインに是非ご注目ください。

*写真:さがデザイン提供

釉薬不使用で焼成する低炭素商品。通常は不良品とされる鉄粉をあえて意匠として取り入れた点も評価された。
◎最後に古賀さんが「さがデザイン」を通してやってみたいことなどがあれば聞かせてください。
〈古賀さん〉やりたいことというか個人的に課題と感じていることは大きく三つあります。一つ目は県庁内のデザインへの理解をもっともっと高めたい。「チラシを直すこと」は手段の一つであり目的ではないので職員へのアプローチは継続しなくてはならないですね。二つ目は農業や福祉など、まだまだデザインの入っていく余地がある分野に必要性を伝えていきたいです。特に一次産業の場合は、産品が規格・等級で均されるため、産地としての信頼と安定供給を担保できる一方で、技術や工夫があっても価値を付加できていないケースがある。そういった可能性のある産品にフォーカスして、デザイン視点で応援できるようになりたいです。最後に三つ目ですが、佐賀を好きになってくれるクリエイターを増やしたいです。「さがデザイン」では、全国的にも珍しいデザイン人材での長期インターンシップ制度を導入しており、「さがデザイン」のメンバーと一緒に行政のクリエイティブな仕事を体験してもらっています。実際に、インターンシップ生がパンフレットの制作なども行っています。「さがデザイン」のさまざまな取組を知ってもらって、一緒に佐賀を盛り上げてくれるクリエイターと関係を築いていくことが重要だと感じています。
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*写真:さがデザイン提供

県庁で開催後は順次、各市役所を巡回するアイデアも素晴らしい。
*写真:さがデザイン提供
「さがデザイン」がやっていることは“なんちゃってデザイン”ではない。どれも芯を食っていると感じた。今回の古賀さんとの対話はとてもスムーズだった。価値観が共有できていたからだ。そもそもデザインは市民や事業者のためにある。いかに暮らしやすくするか。いかに経済性を上げるか。デザインはそういった課題解決でこそ本領を発揮する。行政はデザインの主役ではない。古賀さんをはじめ「さがデザイン」のチームはまさに「ハブ」となり、県庁の各部署と事業者とクリエイターの間で潤滑油の役割を担う。文章にすると平易だが、これがいかに難しいことか、自治体関係者やクリエイターならわかるだろう。この国の行政の現場には見積だけが判断材料となる入札制度がある。出世に響かないよう無難に仕事をこなす上役、リテラシーの低い担当者が選ぶプロポーザルがある。そういった悪しき慣例が「よりよくする」の邪魔をする。「さがデザイン」はその点が真逆。なんなら多くの民間企業よりも「デザイン経営」をうまく活用している。知事がトップダウンで発足したデザインを司るチーム。その現場の面々が工夫しながら回している。他部署の多くが“目の敵”にせず相談しやすい関係を築いている。理想的だと思う。今後知事が任期を終えても「さがデザイン」の体制が維持されれば「デザイン行政といえば佐賀県」というイメージがいよいよ本物になっていくだろう。僕はローカルでデザインに関わる者としてこういった仕組みづくりに貢献したいと強く思った。最後にちらっと「福祉業界」というキーワードが出た。僕も前々から介護や福祉の世界はクリエイティブが画一的で余地があると言及している。予算がかけられないからか、ネーミングは「きずな」「やすらぎ」など画一的。デザインも「笑顔」や「ハート」で埋め尽くされる。事業者によって特徴があるのにクリエイティブで差別化しない。こういった「あるある」の気づきってデザイン思考の一つなんだと古賀さんへの取材で改めて確信した。

PROFILE
古賀 一生|Issei Koga
1988年福岡県生まれ。佐賀大学大学院農学研究科を卒業後、熊本の製粉会社に勤務したのち、2018年佐賀県に入庁(農政職)。農業の普及指導員として米・麦・大豆の技術指導や、米の生産調整、農地集積・集約等を担当し、2025年より「さがデザイン」に配属。クリエイターとの関わり方やデザインを学びながら、各部署の大小さまざまなプロジェクトの伴走支援をおこなう。
https://saga-design.pref.saga.lg.jp
企画・取材:池端宏介(インプロバイド)
撮影:横井 修二(横井写真事務所)
[ヨリヨクとは]
コピーライター職を軸足に活動するインプロバイドのクリエイティブディレクター池端宏介が綴るコラム&インタビュー企画。企画名は社名のIMPROVIDE(「より良くする」という意味の造語)に由来する。テーマは「コトバ」「デザイン」「ブランディング」「マーケティング」「地域のクリエイティブ」など。独自の視点と経験から「よりよくする」を掘り下げる。
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