2026.06.24 JOURNAL|INTERVIEW & COLUMN

デザインには職員も県民もハッピーにする力がある | GUEST 「さがデザイン」古賀一生さん(佐賀県さが政策推進チーム)

◎「さがデザイン」とは何か。簡単に教えてもらえますか?

〈古賀さん〉「どうしたらチラシのデザインが見やすくなるか?」から、まちづくり的な大規模開発の伴走支援まで「デザイン視点」で関わっています。「さがデザイン」は独立したチームなので、県庁のあらゆる部署から相談を受ける横断的な立ち位置で、いわゆる縦割り行政の壁を取り払うため、プロジェクトに応じた庁内関係者の調整も行っています。

チームメンバーが常駐する県庁2階の「さがデザインODORIBA」はオープンで相談しやすい雰囲気。

◎行政の担当者が自作するチラシは、文字が多くて見づらくて“ダサい”というのが主流。そこにどう風穴を開けるのですか?

〈古賀さん〉余白を活かす、優先順位を付けてレイアウトする、文章を減らす、適切な書体を使うなど、本当に基本的なアドバイスをします。少しずつ「デザインの見方」の力を付けてもらう感じです。パワポでも十分にわかりやすいチラシが制作できるように支援をしています。ただ、最も大切にしていることは、チラシの相談が来た時にも「本当にそれを訴求するにはチラシという選択肢がベストなのか?実はSNSの方が効果的では?」といった各事業が抱える課題が正しく捉えられているかアドバイスをします。それこそがデザイン的解決の本質だと思います。

◎そんな古賀さん自身はデザインに詳しかったんですか?

〈古賀さん〉いえいえ。新卒で熊本の企業に勤務したのち、佐賀県庁の農政職に転職。2025年に「さがデザイン」に異動してきました。リーダーの近野は広告代理店出身ということもありいろいろ学ばせてもらっています。もちろん独学で本を読んだり、あとはデザイナーとのやりとりから学んでいます。さがデザインは庁内の各部署と外部のデザイナーをつなぐハブのような役割もあるので、デザイナーとやり取りする上でも、デザイン現場での作業量や使う言葉を知らないといけないなと。

◎「さがデザイン」はどういう経緯で誕生したんでしょう?

〈古賀さん〉佐賀県の山口知事が、知事就任以前からデザイナーと呼ばれる人たちが持っている表現技術や物事の本質を的確に捉える視点、課題解決力に注目されていたそうです。デザインの視点を取り入れることにより、ひとつひとつのプロジェクトがさらに息づき、みんなが様々な面で心地よいと思える佐賀になる。そんなビジョンを掲げて就任直後に「さがデザイン」を県政の柱として立ち上げました。さがデザインは、立ち上げ当初から政策部内に置かれているからこそ、庁内関係者とスムーズに調整できることも大きいですね。

「さがデザイン」の仕組みや事例をまとめたパンフレット。

◎これまで「さがデザイン」が関わった代表的な事案を挙げてください。

〈古賀さん〉まずは施設などのハード関係から。佐賀駅から南へ延びる道路約200mを広場のような歩道空間「さが維新テラス」としてリニューアルしました。元々は片側二車線の駅前通りを片側一車線に変更し、歩道を広げてベンチやテラス席を設けたことで、キッチンカーやマルシェなどで利用され、誰もがゆったり滞在できる空間となっています。「SAGAサンライズパーク」はSAGA2024(国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会)を機に整備されたエリアですが、その先の活用までも見据えて整備してきました。バスケ、バレーなどのプロスポーツの観戦はもちろん全国的な学会や音楽イベントが開催されるSAGAアリーナが完成し、まちや県民のライフスタイルに変化が生まれました。佐賀にB’zやミスチルが来るようになったんです(笑) これらの案件はコンセプトづくりから「さがデザイン」視点で磨き上げています。デザインは「見た目だけかっこよくすることではない」というのがわかってもらえる事例ですね。

駅前通りをリニューアルした「さが維新テラス」
*写真:さがデザイン提供

◎ソフト面ではどんな実績がありますか?

〈古賀さん〉「SAGA BLUE PROJECT」は、デザインの力で県民の意識改革と事故防止を図るプロジェクト。佐賀県は人口あたりの人身交通事故件発生件数が高く、この状況を改善できないかという課題がありました。集中力を高めると言われる「青」をキーカラーに、県内各所の交差点を青色の枠で塗るカラー塗装や、子どもたちが交差点に絵を描くアートイベントも開催。年齢に合わせた取り組みも行い、県全体で取り組んでいるプロジェクトです。農業分野では、「さがアグリヒーローズ」は私が農政出身ということもあり思い入れのあるプロジェクトです。一見よくある6次産業化を後押しする伴走型のプロジェクトなんですが、「4年間で売上1000万円増加を目指す」という長期サポートで売上目標付きというのがポイント。パッケージデザインだけリニューアルして終わりという6次化支援が全国的に多いなか、支援対象者に「なぜデザインにお金をかけるのか」を理解してもらいます。デザイン投資に抵抗感を下げ、デザインリテラシー(理解度)を高めることが狙いです。公募で選ばれた支援対象者は5組。県内外クリエイターと共に商品開発、ネーミング、パッケージデザイン、販促などトライアル&エラーを繰り返しながら答えをじっくりと探っていきます。出口戦略まであらかじめ準備し、首都圏や福岡などでポップアップストアを開催。都市部の消費者と実際に対話し、反応を見る機会を得ます。パッケージデザインをよりよくすることの目的は販売単価を上げること。値段に見合った価値を理解してもらうためには、当然見た目やわかりやすい文言が重要です。ただ、パッケージデザインも経営判断のひとつで、一番大切なのは支援対象者の経営感覚を高めることだと考えます。

交通安全を促進するアート事業「SAGA BLUE PROJECT」
*写真:さがデザイン提供
公園の交流拠点「アルクス」
*写真:さがデザイン提供

◎ここまでのお話はすべて、主体となる担当部署があり「さがデザイン」は相談を受けて伴走する、というパターンですが、さがデザインの自主事業もあるんですよね?

〈古賀さん〉 2025年に初開催した「SAGA DESIGN AWARD」は、佐賀を心地よくするデザインを発見し、讃え、広げるアワードです。このアワードの特徴は、モノではなく、コトにフォーカスしている点です。メディアで取り上げられる機会も多いので、入賞者のプロジェクトに光が当たるのはもちろん、我々「さがデザイン」の取組、デザインそのものやデザインのチカラを県民に知ってもらえます。隔年で開催し、次回は2027年に開催しますので、佐賀で生まれたデザインに是非ご注目ください。

デザインで社会課題に挑む事業者に光を当てる「さがデザインアワード」
*写真:さがデザイン提供
「SAGA DESIGN AWARD 2025」で大賞を受賞したのがこの「うづら」という食器。
釉薬不使用で焼成する低炭素商品。通常は不良品とされる鉄粉をあえて意匠として取り入れた点も評価された。

◎最後に古賀さんが「さがデザイン」を通してやってみたいことなどがあれば聞かせてください。

〈古賀さん〉やりたいことというか個人的に課題と感じていることは大きく三つあります。一つ目は県庁内のデザインへの理解をもっともっと高めたい。「チラシを直すこと」は手段の一つであり目的ではないので職員へのアプローチは継続しなくてはならないですね。二つ目は農業や福祉など、まだまだデザインの入っていく余地がある分野に必要性を伝えていきたいです。特に一次産業の場合は、産品が規格・等級で均されるため、産地としての信頼と安定供給を担保できる一方で、技術や工夫があっても価値を付加できていないケースがある。そういった可能性のある産品にフォーカスして、デザイン視点で応援できるようになりたいです。最後に三つ目ですが、佐賀を好きになってくれるクリエイターを増やしたいです。「さがデザイン」では、全国的にも珍しいデザイン人材での長期インターンシップ制度を導入しており、「さがデザイン」のメンバーと一緒に行政のクリエイティブな仕事を体験してもらっています。実際に、インターンシップ生がパンフレットの制作なども行っています。「さがデザイン」のさまざまな取組を知ってもらって、一緒に佐賀を盛り上げてくれるクリエイターと関係を築いていくことが重要だと感じています。

「さがデザイン」のインターン学生が制作した青翔高校のパンフレット
*写真:さがデザイン提供
取材当日は「AWARDED BY SAGA DESIGN 〜佐賀県が取り組んだデザインの視点 28の成果」という展示イベントも見学できた。
県庁で開催後は順次、各市役所を巡回するアイデアも素晴らしい。
*写真:さがデザイン提供

PROFILE
古賀 一生|Issei Koga
1988年福岡県生まれ。佐賀大学大学院農学研究科を卒業後、熊本の製粉会社に勤務したのち、2018年佐賀県に入庁(農政職)。農業の普及指導員として米・麦・大豆の技術指導や、米の生産調整、農地集積・集約等を担当し、2025年より「さがデザイン」に配属。クリエイターとの関わり方やデザインを学びながら、各部署の大小さまざまなプロジェクトの伴走支援をおこなう。
https://saga-design.pref.saga.lg.jp

 

企画・取材:池端宏介(インプロバイド)
撮影:横井 修二(横井写真事務所)



 

[ヨリヨクとは]
コピーライター職を軸足に活動するインプロバイドのクリエイティブディレクター池端宏介が綴るコラム&インタビュー企画。企画名は社名のIMPROVIDE(「より良くする」という意味の造語)に由来する。テーマは「コトバ」「デザイン」「ブランディング」「マーケティング」「地域のクリエイティブ」など。独自の視点と経験から「よりよくする」を掘り下げる。

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