2024.06.03 JOURNAL|INTERVIEW & COLUMN

デザインの発注に最初から、コピーライターを入れたほうがいい3つの理由

コピーライター職を軸足に活動するインプロバイドのクリエイティブディレクター池端宏介が綴るコラム&インタビュー企画「ヨリヨク」。第二回目は、ただ言葉を書くだけではない、ブランディングやデザイン制作におけるコピーライターの役割についてです。

コピーライターは“ひらめきの職業”ではない。

デザイン業界で仕事をしていると「コピーライターさんお願いします」と単独指名で仕事の依頼がくることがほぼない。「デザインをお願いします」と頼まれてそこにコピーライターがメンバーとしてチームに入っているというパターンが多い。依頼主である企業や農家さんなどからしたらコピーライターに仕事を発注するという発想がない。昭和からのイメージといえば「CMなどのキャッチコピーがひらめく一行の職人」「天才肌で発想の達人」といったところだろうか。実際にはそんな人はいない。クリエイターという括りには入るだろうが、ものすごく地味だ。コピーライターになる人は往々にして裏方気質で派手な人は少ない。

コピーライターがいると
めっちゃ“やりやすくなる”3つのポイント

(1)課題を整理して本質をつかまえる

たとえば「採用のホームページをつくりたい」という課題があったとする。でもよくよくヒアリングすると企業ブランドそのものが伝わっていないということがよくある。企業ロゴが社章のようで刷新の必要性があるだとか企業のスローガンが社訓のようで全く機能していないだとか、そもそも企業のビジョンがブレブレで社員のモチベーションが低いなど、ブランディングの根幹に課題がみつかるというケースが多い。もちろんいったんその場しのぎ的に採用HPをつくってもいいが、そのあと少し時間をかけてインナーからアプローチしていきましょうとプロジェクトを動かすこともできる。そこでコピーライターが機能する。もともと取材力やヒアリング力があるので企業の課題をまっさらに洗い出し、客観的に俯瞰することが得意だからだ。時には企業のキーマンが集まってビジョンを策定するワークショップをする際もコピーライターが司会進行役(=ファシリテーター)を務めることがある。

(2)大きなコンセプトを立てる

課題の本質をつかまえられるコピーライターは、そのあとの方向性を立案できる。どのような未来を描きたいか仮説を立てて、情報の優先順位を整理して、企画書という紙芝居をつくることができる。それもごちゃごちゃしたパワーポイントではなく、小学生でもわかる平易な言葉で簡潔に。そして、企業の太い幹を見つけ出し、あらゆる施策の方向性を定めていくことができる。コンセプトはクリエイティブにとってビジョンと言ってもいい。コンセプトは一言で集約されるので“御旗”となりブレない北極星となる。そこから企業のスローガンやステートメントなど具体的なコトバを生み出すこともできる。さらにコンセプトが立てばデザインもしやすい。具体的にはロゴやイメージカラー、パンフレットや広告のキービジュアルなど絵作りをするデザイナーへのバトンタッチもスムーズだ。どんなデザイナーもキーワードがなくてはデザインできないし、コンセプトを自分なりに解釈してビジュアルを再構築する。

(3)ステートメントをつくる

本業ど真ん中の「コピーをライティングする」業務。前段の課題整理とコンセプト整理に時間を費やす分、その後の提案は案外自然な流れでできる。さらにここまでクリエイターとクライアント側で双方納得を積み上げながら来ているので、大きなブレが少ないというメリットもある。ステートメントとは「宣言文」のこと。企業の哲学や商品ブランドの志しを平易な言い回しかつエモーショナルに文章化したもの。ボディコピーの一種だが根幹を成すメッセージで長く使われるし、共感性の高い言葉が作られた暁には何よりも社内のスタッフの気持ちをまとめ上げる役割や採用向けにも効果を発揮する。もちろんコピーライターという職業であればスローガンやタグラインと呼ばれる一言の短いキャッチコピーを提案することもできる。

ステートメントについて解説した詳細ページはこちら
https://improvide.co.jp/statement/

まとめ

こうしてみるとコピーライターは時にディレクション業、コンサル業、マネージメント業を担うプレイヤーといえる。要は「何でも相談役」だ。仕事柄、人脈もあるのでデザイナーはもちろん、カメラマン、動画クリエイター、建築設計者に至るまで紹介もできる。ブランディングやデザイン経営の重要性を感じ、デザイン会社や広告代理店、クリエイターを探している事業者の方は「コピーライター」で検索するのがおすすめ。いきなり相談料金を取られることはないので、オンラインで話すなり、直接会ってみて、一度相談や提案をお願いするのがよいだろう。人と人との仕事なのでそこで合わなかったとしても提案料金くらいしかかからない。また信頼に値するコピーライターとの出会いを求めればよい。

もちろん地方や企業によっては、コピーライターの仕事も分業化されていて、スーパーのチラシの商品の特徴だけを書くような仕事もある。製品のトリセツを書くテクニカルライターもいる。人によっては得意不得意のあるコピーライターもいる。僕もかつては自動車のカタログのスペックをテキスト化したり、パチンコ屋さんのチラシ業務で人気台のキャッチコピーというか“煽り言葉”を書いたりもしていた。そういう仕事は経営の上流からは離れた販促の現場なので言葉は悪いが “こなす” こともできたが、自分自身としてとても学びが多かった。社会や企業の構造を知れたし、もっと根っこの部分で「こうだったら伝わるのに」と勝手に改善案を考えたりもした。結果論かもしれないが成長という視点では無駄な経験はひとつもない。今は得意ジャンルは特になく100円のお菓子から5000万円の住宅まで広く関わることができるが、特におもしろいと感じているのはB to Bの企業のお手伝いをすること。日の目を見づらい業態だからこそ「知ってもらう」「選んでもらう」「好きになってもらう」にやりがいを感じている。

B to B企業のブランディングについて詳しく書いたこちらの記事もおすすめです。
https://improvide.co.jp/project/jr-freight/

(コピーライター / 池端 宏介)



[ヨリヨクとは]
コピーライター職を軸足に活動するインプロバイドのクリエイティブディレクター池端宏介が綴るコラム&インタビュー企画。企画名は社名のIMPROVIDE(「より良くする」という意味の造語)に由来する。テーマは「コトバ」「デザイン」「ブランディング」「マーケティング」「地域のクリエイティブ」など。独自の視点と経験から「よりよくする」を掘り下げる。