2024.12.02 JOURNAL|INTERVIEW & COLUMN

自治体行政の広報発信。「あるある」から得た教訓

【1】 「あれもこれも」は「なにもなし」

なぜ行政のつくるチラシやポスターの多くは、文字だらけで読む気を阻害するのか。それはつくる過程で「あれも載せなきゃ」「これも載せてほしい」というチカラが働くからだろう。全部伝えようとてんこ盛りにすると、かえって「何も伝わらない」という現象がよく起こる。ではどうすればいいか。優先順位とレイアウトで答えは出せる。

情報をしぼる

紙媒体の構成要素はタイトル、コピー、写真、イラスト、情報などで占められる。まずは「入れなければいけない情報」「入れたほうがいい情報」「入れなくても成立する情報」で分けよう。イベントのポスターの場合、日付やタイトルなどは入れなくてはいけない情報だ。キャッチコピーや写真などの要素は入れたほうがいいものをしぼっておく。

「入れなくてもいい」というのは難しいが「自分なら」で考えるのが重要。たとえばURLやQRコードなどは案外なくてもいい。QRコードはデザイン的にうるさくなるし、そもそもそこにカメラをかざす人はけっこう少ない。担当者に聞いてみると「自分はやらない」という人が多い。じゃあなぜ載せるかというと「指示があったから」程度の理由だったりする。会場の地図や交通機関の案内もスマホで見ればたいていのことがわかるので掲載の優先順位は低いと判断したほうがいい。「入れなくてはいけないけれど小さくていい」という情報もある。例えば主催・共催・後援の団体名の羅列や注意事項などのテキストがそれにあたる。そういうものは「掲載した」というアリバイが重要なので最小の文字サイズで下部にまとめて記載しておこう。

限られたスペースでいかにテキスト量を調整できるか。「人は文章は読まない」という前提で考えると長々と説明文やメッセージを書いても文字の塊になるだけ。文字列を前に「うわっ見たくない」と脳が瞬時に判断するので、見てもらえないという現象が起こる。知ってほしいのに見てすらもらないとなるとそれは本末転倒。文章は邪魔になるので思い切って割愛するか、リードコピー(短い文)として2〜3行でとどめておきたい。

オモテはポスター、ウラは情報

A4フライヤー(チラシ)を例にすると、オモテ面は「ポスター」と捉えるのをオススメする。A4とはいえ棚に配架されたときに目立つからだ。面をポスターと考えると構成すべき要素はタイトル、コピー、ひとつのビジュアルで精一杯。要素を自ずと少なくすることで視線が集められる。つまり興味を持ってもらえたり、手にとってもらえるようになる。ポスターは0.2秒が勝負と言われる。パッと見のインパクトがだいじと多くの担当者さんが言うけれど要素を減らさないと見た目のインパクトは与えられない。「余白をつくる」はデザインの基本だがその通りだろう。

一方で裏面には「入れなければいけない情報」をてんこ盛りにすればいい。情報が過多になるとごちゃつきやすくなるので、色数や書体など統一感にも配慮して、小さな余白を活用しながら整然とレイアウトしたい。プロのデザイナーにレイアウトしてもらうなら問題はないが、パワポやワードでもすっきりとレイアウトする担当者さんに時折出会う。その技術には敬意を表したい。

「オモテはポスターのように、ウラは情報を詰め込む」という考え方でつくった北見藤高校のイベントフライヤー。

【2】「無難な着地点」に着地しないために

本来、発信物は「広めるため」「知ってもらうため」に制作するものだが、いつしか波風を立てずにその場を取りまとめることが目的化してしまうシーンによく出くわす。例えば「上司の壁」「役員会の壁」を乗り越えようと前例主義で当たり障りのない表現で通すというケース。あるいは多くの人がチェックする「儀式」ですべての指摘を受け入れて文字が多くなる、言い回しが堅苦しくなるケース。正しい表現が伝わる表現になるとは限らない。「意見」と「感想」はちがう。個々の声や修正指示はひとつひとつ精査しよう。

クレームを恐れて無難になるケースもある。前提として炎上するような表現は避けなければいけないが、世の中には文句を言いたい人というのが一定数いる。そんなノイジーマイノリティ(うるさい少数派)を恐れすぎる必要はなく、的を射ないクレームには毅然と向き合えばいい。「お客様は神様です」の時代は終わった。昨今のカスハラ撲滅の風潮も後押しになるだろう。

一般投票や多数決も要注意だ。「まあまあいい」の10票は「まあまあよくない」の10票と変わらない。こうして決まった案はいざ世に出すと引っ掛かりが弱くてスルーされる可能性も高い。もし仮に多数決をしたとしても、最終的には案件への関与度の高い人、情熱を持って担当している人が判断基準を持って決裁することをオススメしたい。デザインやコトバなどクリエイティブな表現にはすべて意図や機能がある。つまり判断基準のない人、リテラシーの高くない人が投票してもそれは好き嫌いや人気投票に過ぎず、最終的に「伝わるもの」が選ばれるかどうかは別の話となる。

せっかくコストをかけて制作しても「あまり伝わらない」では本末転倒。「興味をもってもらう」「見てもらう」「読んでもらう」「共感してもらう」ためには無難な表現から脱する勇気が必要だ。いや勇気や頑張りというメンタル面ではなく、ちゃんとした案が選ばれる「仕組みづくり」と「リテラシーの共有」を整備しよう。

【3】「担当者が変わっちゃう」問題

長沼町の食のブランドポスター。制作の目的を理解し、内部調整に長けた担当者さんと二人三脚でつくった。

企業でもよくあることだが、役場や公的団体などはめまぐるしく「人」が変わる。北海道でいうと市町村役場と北海道庁があるが、特に道庁にはさらに振興局という各地の支局があり、その異動も激しい。中央の道庁本庁舎(札幌市)からローカルの振興局へ異動してモチベーションが上がらない人もいる。「地域愛」が薄いという理由もあるだろう。個人のメンタリティや能力についてああだこうだ言ってもはじまらないが、こと広報発信や啓発活動、イベント企画、アート企画などクリエイティブに関わる担当者さんには、やはり付き合いやすさ=仕事のしやすさを求めたくなるのが我々制作側、受託事業者の本心だ。

やる気がある担当者さん、できる担当者さんが在職している時は順風満帆。そういう人は「施策を成功させれば地域の事業者のためになる」という大義名分を理解し、目的と手段をきちんと分けて遂行してくれる。往々にして決裁権のある上司とのやりとりもうまい。つまり「案を通す」技術に長けているのだ。僕はその人を「スーパー担当者」と呼んでいる。

問題はその人がいなくなった時。引き継ぎがうまくいくかどうかだ。バトンを受けた人が前任者の背中を見ながら伴走しているパターンの時はけっこううまくいく。前任者のやり方や人脈を引き継ぎやすいからだ。一方、いきなり前任者とタイプの異なる担当者さんが異動してきたり、上役に就任したりするパターンは作戦会議が必要だ。その人にはその人の考え方、やり方がある。 そもそも行政の広報発信などは、よいもの、目立つもの、おもしろいものを作らなければいけないという指針はない。広報発信によってどれだけ来場者数が増えたかなどの効果測定がなされることもない。だからクリエイティブなアイデアを盛り込まなくてもいいし、やりやすい「業者さん」と組んで淡々と発信すれば業務は完遂される。さらにいうと公的な組織の場合は、プロポーザルや入札などの業者選定が繰り返されるので、継続的なブランディング施策も成功しにくい。今のところこのような「行政あるある」に対策はないが、たとえば、まちづくりビジョンの策定段階で「創造性」「クリエイティブ」「デザイン」などのキーワードを重用し、自治体の重点施策として位置づけしておけば、担当者が変わろうとブレずにプロジェクトが継続されていく。そういった成功事例は全国に散見される。そのためにはなぜ「デザインが重要なのか」という本質の議論、ひいては子どものうちから「デザイン教育」が必要だ。長い目で見れば解決の糸口はそこに行きつく。

「デザイン教育」の一環で開催する筆者・池端のワークショップ講座。
参考 https://note.com/ikehata_kosuke/n/n2a390f06a0a8

 

Illustration:久松 亜咲季(IMPROVIDE)



 

[ヨリヨクとは]
コピーライター職を軸足に活動するインプロバイドのクリエイティブディレクター池端宏介が綴るコラム&インタビュー企画。企画名は社名のIMPROVIDE(「より良くする」という意味の造語)に由来する。テーマは「コトバ」「デザイン」「ブランディング」「マーケティング」「地域のクリエイティブ」など。独自の視点と経験から「よりよくする」を掘り下げる。

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地域ブランディングにはコトバが必要だ | GUEST デザイナー  梅原真さん

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