2025.04.09 JOURNAL|INTERVIEW & COLUMN

意志ある目的のための、意志ある環境づくりを目指す | 浦幌町長 井上亨さん

IMPROVIDEが取り組むデザインプロジェクトの「はじまり」を紹介する「STARTING LINE〜プロジェクトの起点〜」。クリエイティブディレクター小林がナビゲーターとして、企業や団体のトップや有識者と対談。ブランディング、人材開発、採用・育成をキーワードによりよい方向へ導く起点を考えていきます。

北海道十勝の海沿いに位置し人口4,095人*のまち、浦幌町。「うらほろスタイル」という地域への愛着を育む独自教育を学校・行政・NPO・企業・団体、そして町民など地域が一丸となり、18年続けてきた「こどもへの眼差しがやさしい」まちである。もちろん農業も漁業も、林業も揃った一次産業がベースの町でもある。昨今は町を舞台に若者たちが新たにゲストハウスやカフェ、美容室をはじめたり、まちづくり会社「十勝うらほろ樂舎」の活動による「うらほろマラソン」や「うらほろアカデメイア」など地域づくりを軸にした活動が活発になってきている。それは定員11名の町議会議員において、6名が45歳以下であり、その中で女性が3名当選しているという事実にも、生まれ変わりをはじめている自治体とも言えるだろう。
*(2025年1月31日時点)

浦幌町はこれまで積み重ねてきた「未来づくり事業」を加速させている。そのキックオフとして、2025年2月に「うらほろ未来づくり会議2025」が開催され、IMPROVIDEではクリエイティブディレクションからワークショップ企画・運営までを担当。当日は町長から「浦幌町の現状と課題、目指したい未来像」が共有され、その後100名ほどの町民とこれからのアクションの1歩目を考えていった。

ワークショップ前のインプットは、(株)ヒューマンルネッサンス研究所代表取締役社長・立石郁雄氏。オムロン株式会社創業者の立石一真氏らが1970年国際未来学会で発表し、今もなお経営の羅針盤として活用されている未来予測理論「SINIC(サイニック理論)」への理解とともに、これから来るであろう「自律社会」についてレクチャーいただいた。科学・技術・社会が相互に影響を与えつつ人間の価値観の変容と共に発展していくという考え方は、ブランドやデザインの進化とも重ねて捉えることが可能であり、マーケティングさえも領域に入る理論。在りたい未来、在り得る未来を探していくための、まさに羅針盤だ。

当日の様子はヒューマンルネッサンス研究所のメディア「SINIC.media」でもレポートされています。
https://sinic.media/sinic-action/3569/

人口減少が進み、新しい産業の創出も困難な状況において、改めて町の存続のために課題解決のみならず、町の魅力をどう作り、町の意志をどう伝えていくのがよいのかを、浦幌町役場と町民の方々、企業の方々で考える。「うらほろ未来づくり会議2025」を皮切りに、町の意志づくり=ブランディングが始まろうとしている。

“そもそも「未来づくり事業」は、役場だけでは解決できない課題を外部の企業や団体と解決していくために立ち上がった事業です。私は30年間役場職員として働いてきましたが、その間も様々な動きに対して変わり続けてきたと思います。ですが、社会の変化も早くなり国の方針も進化していく中、役場職員だけでは本質を捉えきれなくなっているのは、どこの地方自治体も同じではないでしょうか。”

浦幌町では、十勝うらほろ樂舎が地域のまちづくり会社として、役場と町民、役場と町外企業・団体の間に入る中間支援組織として活動中だ。町外出身者が多く在籍する十勝うらほろ樂舎は、まちの在るべき姿を考えながら新しい視点で「うらほろスタイル」を生み出し、「うらほろマラソン」や「うらほろアカデメイア」など町外企業との接点を多く作り出している。そのやりとりの中で、「町としてはどのような意志を持っているのか」という問いを投げられることも多いそうだ。企業サイドも、単なるイベントへの協賛や広告を出稿するだけではなく、十勝うらほろ樂舎を通じて町と一緒に取り組むことが求められる時代、取り組む相手の考えや想いは重要だ。

“これからは、どこの自治体も「選ばれるまち」にならなくてはいけません。しかも両立すべきは、持続可能なまちづくりだと考えています。それは「人」の面で言うと、コミュニティを壊さず、新しい人を受け入れていくこと。「価値」の面で言うと、期待される在りのままの田舎を守り続けていくことです。”

人への考えひとつをとってみても、本質的だと感じた。例えば、いきなり移住に踏み切る人は長く続かないかもしれない。何かピンと来るものがあれば、町に何度も足を運び、町の人と対話を重ねたり、関係をつくることで決断するだろう。そのために町は「地域の人と話せる町」をつくる。美しい風景写真やただ都会的なロゴデザインなどでイメージをつくり、広告するだけの時代ではない。

“浦幌は数々の「選ばれる」ための取り組みがあります。例えば、ジェンダーギャップへの取り組み。女性が好んで行きたい(帰りたい)と思える町でないといけません。その意識を変容させるため、セミナーやワークショップなどを行なっています。もうひとつは「若者が帰ってくるまち」への取り組みです。その根源は「うらほろスタイル」にもある、地域への誇りです。子どもの頃から育まれたシビックプライドは、大人になってからも消えることがありません。大切なのは、帰ってこれる町をつくることです。最後は「うらほろマラソン」です。ただのマラソンイベントではなく、1ヶ月前から地域の大人たちと子どもが取り組むコミュニティスポーツとして根付いてきています。こういった徹底してローカルを磨く活動を、これからも町のみなさんと進めていきたいですね。”

 

大きな目的があり、そのために準備して環境を整えていく。本来の「まちづくり」とは、こういう事なのかもしれない。SINIC理論で言う「機械化社会」「自動化社会」「情報化社会」という3つの工業化が進み物質的な豊かさを獲得してきたなかで、我々は「まちづくり」にも同じように更なる発展や成長を求めてしまってはいないだろうか。現在の「最適化社会」を通じて、過去から続いてきた社会課題の解決だけではなく、そこに関わる人間自身の最適化も求められているのだろう。これから訪れる「自律社会」においては「まちづくり」への認識もアップデートが必須であり、そこに関わるデザインやブランディングも、新たな局面を迎えつつある。

TEXT:代表 / クリエイティブディレクター 小林 元

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新旧の考えを織り混ぜ、在りたい姿を捉え直す。| 一般財団法人札幌市スポーツ協会理事長 鈴木和弥さん

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